被相続人の生活を覗くべし
税理士の立場としてのお話です。
相続税の申告依頼が来て、相続人代表の方と初めて面談する場合。
ここで何を話すべきだろうか?
・相続人は誰で何人いるか?
・おおよその財産の状況は?
・申告に必要な書類
・報酬の概算
などなど、話すべき事は多岐にわたるが、そのほかに
・被相続人の死因、病歴、意思能力の有無
・被相続人の経歴(仕事、趣味など)
などは必ず聞いておきたいところ。
とくに仕事や趣味などはプライベートに立ち入るようだが 、押さえておきたい情報だ。
”被相続人の生活を覗くべし”
である。
お金の出入りこそ肝要
被相続人はどのようにして亡くなったのだろう?
病気だったとしたら、どのような病気で、どのくらい入院し、どのくらい身体を動かせたのだろうか?また、意思能力はあっただろうか?
被相続人の生前の生活ぶりはどうであったか?
どういう仕事をし、何が趣味で、どのように蓄財し、何にお金を投じてきたか。
これらを聞き取ることで、 いつ、どのようにお金が動いたかを知る手がかりとなる。
お金がほかの財産に化けていないか
亡くなる直前に度々預金が引き出されていたら?
先ほどの聴き取りと照らし合わせ、本人が引き出したのか、それとも親族が引き出したのか・・・などを確認する。そのための聴き取りである。
本人が引き出したなら、使途は何か?
自分で引き出すような意思能力はあったか?
親族が勝手に引き出して使ってしまっていないだろうか?
これらを確認した上で手持現金として財産に加えるなどの処理をする必要がある。
生前の稼ぎと対比して、残った財産が少なくはないだろうか?
なぜお金が減ったのか?他の財産に変わっていないか?
趣味に投じたもので財産になるものはないか?
こういった判断のためにも職業や趣味などの聴き取りが必要だ。
被相続人の生活を覗くことでお金の出入りが見えてくる。
相続に会計帳簿はない、だから・・・
重要なのは、いかに財産の漏れをなくすか、である。
これが法人税の申告であれば 、日々経理処理を行い、集積された会計データを根拠として申告書が作られていく。会計データにもれや誤りがなければおのずと正しい申告書ができあがる。
相続税においては会計帳簿なるものは存在しない。
すべて原始資料から当たっていく必要がある。
税理士は被相続人の生活の中から、申告に必要な情報を選択して抜き取っていかねばならない。
そのためにはプライベートに立ち入る質問もしていく必要がある。
税務署の調査官はこの辺りがさすがにお上手で、世間話を装ってさりげなく情報を引き出されている。
立場は異なれど、見習うべき技術である。